歯科コラム

はじめに

インプラント治療を受けた後、全身の健康管理の一環としてMRI(磁気共鳴画像法)検査を受ける必要が生じることがあります。しかし、インプラントは金属製であることが多く、MRIの強力な磁場との相性に不安を感じる患者様も少なくありません。

実際、インプラントとMRIとの相互作用については、正しい知識を持つことが非常に重要です。本記事では、インプラント治療を受けた患者様がMRI検査を受ける際に知っておくべき注意点、対策、実際の対応事例について詳しく解説いたします。

 


 

1. MRI検査とは?

MRI(Magnetic Resonance Imaging)は、強い磁場と電波を利用して体内の断面画像を撮影する非侵襲的な医療検査法です。放射線を使用しないため、被曝リスクがなく、脳・脊髄・関節・内臓などの詳細な構造を見ることができます。

一方で、MRIでは強力な磁場(1.5〜3.0テスラ)を用いるため、体内に金属がある場合には以下のような影響が懸念されます

  • ・金属が磁場で動いてしまう可能性
  • ・金属による画像の乱れ(アーチファクト)

・発熱や痛みなどの生体への影響

 


 

2. 歯科インプラントの材質とMRIへの影響

主なインプラント材質:

  • チタン(純チタンまたはチタン合金):最も一般的な素材。磁性がほとんどない。
  • ジルコニア:セラミック素材で、磁場に対する影響はゼロに近い。

結論:

多くの歯科インプラントは非磁性体(磁石に反応しない)であるため、MRI検査において危険性は非常に低いとされています。特に近年使用されているインプラントはMRI対応製品が主流です。

ただし、以下のような注意点があります

  • ・製品によっては一部に磁性成分が含まれる場合もある
  • ・MRI画像にアーチファクト(画像の乱れ)が生じる可能性がある

・顎・顔面領域のMRI撮影に影響する可能性

 


 

3. MRI検査を受ける前の注意点

1. インプラント装着の有無と詳細を申告する

  • 検査予約時または問診票記入時に、歯科インプラントが入っていることを必ず申告しましょう。
  • 可能であれば、インプラントの材質やメーカーがわかる診療情報提供書を提出します。

2. インプラント部位と撮影部位の関係を確認する

  • インプラントが頭部や頸部に近い位置にある場合、画像にアーチファクトが影響する可能性があります。
  • 胸部・腹部・下肢などインプラントから離れた部位のMRIでは、問題になることはほとんどありません。

3. マグネット式義歯・矯正器具にも注意

  • インプラント以外の金属(磁石付きの義歯、矯正装置など)も申告が必要です。
  • マグネット式アタッチメント義歯はMRI中に発熱や移動のリスクがあります。

 


 

4. MRI検査当日の対応

  • ・受付・技師への申告:再確認の意味でも、検査当日に口頭で申告することが望ましいです。
  • ・口腔内の異常感に注意:検査中に違和感、痛み、熱感を感じた場合は直ちに検査を中止してもらいましょう。

・装着型義歯の取り外し:可能な限り取り外しておくと安全です。

 


 

5. ケーススタディ

ケースA:チタン製インプラント患者の脳MRI

  • ・60代男性、上下顎にチタン製インプラント複数本を装着。
  • ・脳MRIを撮影する必要があり、事前に申告。
  • ・若干のアーチファクトが発生したものの、診断に支障なし。
  • ・結果としてMRIは安全に実施された。

ケースB:マグネット義歯を装着していた70代女性

  • ・義歯に磁性マグネットが使用されていたが、申告を怠る。
  • ・MRI中に熱感を覚え、検査を中止。

・再検査では義歯を外して問題なく撮影。

 


 

6. 歯科医院との情報連携の重要性

MRI撮影が予定されている場合は、かかりつけの歯科医院に相談することを強く推奨します

  • ・インプラントの種類・材質を確認
  • ・必要に応じて診療情報提供書を発行
  • ・義歯や補綴物の安全性を確認

歯科と放射線科、または主治医との連携によって、患者様は安心して検査を受けることができます。

 


 

まとめ

インプラント治療を受けた患者様であっても、多くの場合、MRI検査は安全に受けることができます。しかし、安全のためには申告・確認・相談が非常に重要です。

  • ・インプラントの材質や位置を把握すること
  • ・検査部位との関係性を理解すること
  • ・医療機関間の情報連携を行うこと

これらを実践することで、より安全かつ正確なMRI検査を受けることができます。