
近年、日本でも「インプラント治療」という言葉はかなり広く知られるようになりました。ですが実際には、「インプラント治療を選択する人」はまだまだ一部に限られており、海外、特にヨーロッパやアメリカと比べると普及率はかなり低いというのが現状です。
なぜ、日本ではインプラントが広く普及していないのか?
一方、海外ではなぜインプラントが当たり前の治療選択肢として定着しているのか?
今回は「日本と海外におけるインプラント治療の普及率の違い」について、具体的な数値や背景、文化的・制度的な視点からわかりやすく解説していきます。
■ インプラント治療とは?
まずは簡単に、インプラント治療についておさらいしておきましょう。
インプラント治療とは、歯を失った部分のあごの骨に、チタン製の人工歯根(インプラント)を埋め込み、その上に人工の歯を装着する治療法です。
ブリッジや入れ歯と異なり、周囲の健康な歯を削る必要がなく、咀嚼力も天然歯に近く、見た目も自然という大きなメリットがあります。
しかし、外科的処置を伴う点や、保険適用外で費用がかかる点から、選択に慎重になる患者様も少なくありません。
■ 日本と海外の普及率の違い
インプラント治療の普及率は国によって大きく異なります。
たとえば、スウェーデンでは国民の約4〜5割がインプラントを経験していると言われており、予防歯科の意識が高く、公的な補助制度も整っていることが要因です。
ドイツでも3割以上の人がインプラント治療を受けており、特に中高年層を中心に根強い人気があります。自費治療が中心ではありますが、文化的に“歯を失ったら元の機能に戻す”という考え方が定着しているため、インプラントは自然な選択肢とされています。
アメリカでは約2〜3割程度とされており、審美的な意識の高さや医療技術の進化により、都市部を中心にインプラント治療が一般的になっています。
近隣のアジア圏では、韓国が非常に高い普及率を誇っており、国を挙げてインプラントの導入を支援してきた背景があります。その結果、高齢者を含め多くの方がインプラントを選択する文化ができあがっています。
一方で、日本ではインプラント治療を選択する方の割合は全体の6~8%程度とされ、他国と比べるとまだまだ低い水準にとどまっています。その背景には、保険制度の違いや文化的な価値観、情報不足などが影響していると考えられます。
■ 日本でインプラントが普及しにくい理由
① 保険制度の影響
日本では国民皆保険制度があり、入れ歯やブリッジといった治療は保険適用で安価に提供されます。そのため、患者様にとっては「とりあえず保険内で済ませたい」という心理が働きやすく、高額なインプラント治療は選択肢に入りにくい傾向があります。
一方で、海外では歯科治療が自費診療である国が多く、最初から「良い治療=高額」なのが前提という意識が強いため、治療選択において価格だけで判断されない傾向にあります。
② 予防歯科・口腔意識の差
スウェーデンやドイツでは、予防歯科が当たり前の文化として根付いており、歯の健康を長期的に考える意識が非常に高いです。
一方、日本では「歯が悪くなってから歯科医院に行く」という考え方が根強く、歯を失ってから初めて選択肢を考えるケースが多く見られます。
その結果、「高額・外科手術あり・時間がかかる」インプラントは敬遠されがちなのです。
③ 情報提供・教育の不足
多くの日本人にとって、インプラント治療はまだまだ「よくわからない」「怖い」というイメージが先行しています。
- ・手術が不安
- ・失敗するリスクがある
- ・一生もつのかどうか不安
といった声が多く、医療側からの情報提供が十分でない場合、患者様は“現状維持”を選びがちです。
その点、欧米諸国では患者教育(オーラルヘルスリテラシー)が進んでおり、選択肢として自然にインプラントを受け入れる土壌ができています。
■ 海外ではなぜインプラントが浸透しているのか?
① 「失った歯は回復すべき」という考え方
スウェーデンやドイツでは、「永久歯は一生使うもの」「失ったらなるべく元の機能に近づけるべき」という価値観が広く共有されています。
そのため、ブリッジや入れ歯よりも「インプラントで歯の機能と審美性を回復する」ことが当然の選択とされています。
② 公的補助制度や保険の仕組み
スウェーデンなどでは、一定条件下でインプラント治療の費用が一部補助される制度があり、患者の負担が軽減されています。
また、民間保険でも補償対象に含まれているケースが多いのも特徴です。
日本でも医療費控除やデンタルローンの利用など負担を減らす方法はありますが、広く知られておらず制度的な整備も不十分なのが現状です。
③ 美意識と口元への意識の高さ
欧米諸国では「口元=その人の印象を決める大事なパーツ」という意識が非常に強く、歯並び・白さ・かみ合わせに対する美意識が高い傾向があります。
インプラントも見た目を損なわない治療法として、広く受け入れられているのです。
■ 今後、日本でもインプラントは普及するのか?
徐々にではありますが、日本でも以下のような要因によりインプラント治療を選ぶ人が増えてきています。
- ・情報発信の強化(Web・SNS・クリニックの啓発)
- ・医療技術の進化(短期間・低侵襲化)
- ・高齢化社会による口腔機能の重要性への理解
- ・医療費控除やローンの整備による導入のしやすさ
とはいえ、日本独自の保険制度・文化・価値観を考えると、急激な普及は見込みにくく、長期的な教育と意識改革がカギを握ると考えています。
■ 最後に:患者様にとって最良の選択とは
インプラント治療は、確かに費用や手間がかかる治療です。しかし、その機能性・審美性・快適さは他の治療法にはない魅力があります。
私たち医療者ができることは、単に治療をすすめることではなく、患者様が正しい情報に基づいて“納得できる選択”をするためのサポートをすることだと考えています。
「歯を失ったとき、どの治療が自分に合っているのか」
その判断ができるような情報提供・対話の機会を増やしていくことが、日本でのインプラント普及の第一歩になるのではないでしょうか。