
高齢化社会が進む現代において、歯の健康と全身の健康はますます深く結びついています。特に、心筋梗塞や脳梗塞などの血栓症予防のために「血液サラサラのお薬(抗血栓薬・抗凝固薬)」を服用されている患者様が増えており、歯科治療、特に外科処置を含むインプラント治療に対して不安を感じる方も多いのではないでしょうか。
今回は、抗血栓薬を服用中の患者様がインプラント治療を受ける際に注意すべき点や、安全に治療を進めるためのポイントについてご紹介いたします。
1. 抗血栓薬とは?
いわゆる「血液サラサラのお薬」とは、血液が固まるのを防ぎ、血栓ができるのを抑える薬のことです。大きく分けて以下の2種類に分類されます:
- ・抗血小板薬(例:バイアスピリン、プレタール、プラビックスなど)
→ 血小板の働きを抑え、血栓ができにくくします。 - ・抗凝固薬(例:ワーファリン、イグザレルト、エリキュースなど)
→ 凝固因子に作用して血液の固まりやすさを調整します。
これらの薬は、脳梗塞や心筋梗塞、心房細動、人工弁置換後などの治療・予防において非常に重要な役割を担っており、自己判断で中止することは非常に危険です。
2. インプラント治療におけるリスクと配慮
インプラント治療は、顎の骨に人工歯根を埋め込む外科手術を伴うため、出血のリスクがあります。そのため、抗血栓薬を服用している方にとっては、術中および術後の出血リスクを慎重に評価する必要があります。
■ 主なリスク
- ・術中の止血困難
- ・術後出血の持続
- ・術部血腫による腫れや痛み
- ・二次感染の可能性
とはいえ、近年のガイドラインや研究では、「抗血栓薬を中止せずに歯科手術を行う方が安全である」との見解が主流になりつつあります。特に軽度~中等度の出血が予想される歯科手術(インプラント埋入手術を含む)では、薬を中断せずに治療を行う方が、全身的リスクを抑えられるというデータが多く報告されています。
3. 治療前の確認ポイント
インプラント治療を安全に行うためには、以下のような準備が重要です。
■ ① 主治医(内科・循環器科)との連携
現在服用中の薬の種類、服用目的、用量、服用期間を明確にし、必要に応じて主治医と歯科医が情報を共有します。特に、抗凝固薬を服用している場合には、**PT-INR(血液の固まりやすさを測る指標)**の数値を確認することもあります。
■ ② 出血コントロールの計画
術前から術後までの出血管理計画を立て、局所止血剤、縫合、圧迫止血などの対策を講じることで、リスクを大幅に下げることが可能です。
■ ③ 術後のフォローアップ
治療後の出血や腫れの経過をしっかり観察し、異常があれば早めに対処できる体制を整えます。
4. 当院での対応方針
当院では、抗血栓薬を服用中の患者様に対しても、安心してインプラント治療を受けていただけるよう、以下のような体制を整えております。
- ・主治医との情報連携の徹底
- ・出血量を最小限に抑える低侵襲な術式の採用
- ・吸収性止血剤や縫合糸の使用による的確な止血
- ・術後の経過観察と万が一の対応体制
- ・できるだけ低侵襲な手術を検討
また、患者様には術前の詳細なカウンセリングを行い、不安や疑問を一つひとつ解消しながら、治療に進んでいただきます。
5. よくあるご質問(FAQ)
Q1. 抗血栓薬はやめた方がいいのですか?
A. 基本的に中止しない方が安全です。出血リスクよりも、薬をやめることによる脳梗塞や心筋梗塞のリスクの方が高いためです。医科の主治医と相談の上、必要があれば一時的な調整を行うこともあります。
Q2. 出血したらどうすればいいですか?
A. まずは清潔なガーゼでしっかり圧迫止血してください。それでも止まらない場合は、すぐに当院までご連絡ください。
Q3. 他の治療(抜歯や歯周外科など)でも同じ対応ですか?
A. はい。抗血栓薬を服用している方の多くの歯科処置において、同様の対応と配慮が必要です。
6. 最後に~「安心して治療を受けていただくために」
「血液サラサラの薬を飲んでいるから、インプラント治療は無理かも…」とお悩みの方、どうかご安心ください。医科と歯科がしっかり連携し、適切な術前準備と術後管理を行えば、安全に治療を進めることが可能です。
不安なことがあれば、どんな小さなことでも構いません。まずはお気軽にご相談ください。