
はじめに
インプラント治療の分野では、日々新たな技術や製品が開発されており、患者様にとってより短期間かつ安全で確実な治療が可能となっています。その中でも、世界的に信頼されているストローマン(Straumann)社から登場した「TLXインプラント」は、近年注目を集めている最新のインプラントシステムです。
TLXインプラントは、従来の骨統合型インプラントに比べて設計面、表面性状、生体適合性において多くの進化を遂げており、即時荷重にも対応する画期的な特性を持っています。
今回は、ストローマンTLXインプラントの特徴や利点、臨床応用の実際について、専門的な観点からわかりやすくご紹介します。
1. ストローマン社とは?
ストローマン社はスイスに本社を置く、世界有数のデンタルインプラントメーカーであり、インプラントシステム、デジタルソリューション、再生医療分野において国際的な評価を受けています。
製品の信頼性、科学的根拠に基づく研究、そして世界中の歯科医師との連携により、同社のインプラントは常に高い成功率と長期安定性を誇ります。
2. TLXインプラントの基本設計と特徴
2-1. ティッシュレベル(Tissue Level)デザイン
TLXは「Tissue Level」を意味し、インプラント体の一部が歯肉より上に出るように設計されています。このデザインは、歯肉の健康維持やインプラント周囲炎のリスク軽減に寄与します。
2-2. トランスジショナルデザイン(円錐形状)
TLXはコニカル(円錐)形状を持ち、初期固定力を高めることで、抜歯即時埋入や即時荷重といった早期治療への適応性が高いのが特徴です。
2-3. 特殊な表面処理「SLActive」
ストローマン独自のSLActive表面は、親水性が高く、血液やタンパク質との結合を促進することで、骨との結合速度が非常に速いという特性があります。
2-4. Roxolid(ロキソリッド)合金
TLXには、チタンとジルコニウムの合金であるRoxolidが使用されており、従来の純チタンに比べて強度が高く、骨量の少ない部位にも使用可能です。
3. TLXインプラントの主な利点
3-1. 即時荷重への対応
高い初期安定性により、抜歯と同時のインプラント埋入と即時荷重(その日のうちに仮歯を装着)にも対応可能で、治療期間の短縮につながります。
3-2. 周囲組織への配慮
ティッシュレベル設計とSLActive表面の組み合わせにより、歯肉と骨の安定性が向上し、長期にわたるインプラント周囲組織の健康が期待できます。
3-3. 手術時の操作性
1回の外科処置で済む症例が多く、歯科医師にとっても操作性が高く、患者の負担軽減につながります。
3-4. 美的側面への配慮
歯肉ラインのコントロールがしやすく、審美的な結果が得やすいため、前歯部への応用にも適しています。
4. 使用方法と臨床応用
4-1. 適応症例
- ・抜歯即時埋入が可能な症例
- ・骨造成を最小限に抑えたい症例
- ・即時荷重を希望する患者
とくに、私としては条件が整えば臼歯部における抜歯即時埋入症例に積極的に使用していきたいと考えています。TLXインプラントの高い初期安定性と強度を活かすことで、臼歯部においても従来より短期間で高い予知性をもって治療が進められる可能性があるためです。
4-2. 手術の流れ(抜歯即時埋入の例)
- 1. 抜歯後、骨の状態を確認
- 2. 適切なサイズのTLXインプラントを選定
- 3. トルクコントロールしながら埋入(高い初期固定)
- 4. 必要に応じて骨補填材使用
- 5. 仮歯を即日装着
- 6. 数週間~数ヶ月後に最終補綴
5. 注意点と歯科医師の判断
TLXインプラントは優れた特性を持つ一方で、全ての症例に適応するわけではありません。特に以下の点に留意が必要です。
- ・骨質が極端に悪い場合には初期固定が得られないことがある
- ・骨造成が必要な症例では慎重な術前計画が求められる
- ・即時荷重には一定の経験と技術が必要
そのため、治療を希望される患者様は、TLXインプラントの導入経験のある歯科医師と十分に相談することが重要です。
まとめ
ストローマン社製TLXインプラントは、最新の技術と生体工学的設計に基づいた高機能インプラントシステムであり、即時荷重や審美性の高い治療を求める患者様にとって魅力的な選択肢です。
私としては、特に臼歯部における抜歯即時埋入への応用に高い可能性を感じており、今後の臨床において積極的に取り入れていきたいと考えています。
その性能を最大限に引き出すには、歯科医師の的確な診断と技術、そして患者様との十分なコミュニケーションが欠かせません。